仕事を楽しみながら、
結果を出せる職場に
1967年生まれ。1989年筑波大学卒、日本テレビ放送網株式会社入社。1999年、青山学院大学大学院国際政治経済学研究科修士課程を修了しMBA取得。その後ソニー株式会社に入社。2003年にハンゲームジャパン株式会社(旧NHN Japan株式会社)に入社。取締役を経て、2006年10月 取締役副社長、2007年10月 NHN Japan代表取締役社長に就任。同年11月、ネイバージャパン株式会社設立に伴い、ネイバージャパン代表取締役社長に就任(NHN Japan代表取締役との兼務)。2013年4月、NHN Japan株式会社の商号変更により、LINE株式会社代表取締役社長に就任。2015年3月、同社代表取締役社長を退任。同年4月、C Channel株式会社代表取締役に就任し、現在に至る。
パフォーマンスアップの鍵は、
プライベートの充実
C Channelは、若い女性向けにトレンド情報を提供するサービスを運営しています。現在の社員は約130名。アルバイトやインターン、海外にあるジョイントベンチャーのメンバーも合わせると300名ぐらいになります。このうちの約7割が女性です。我々のサービスのユーザーと年齢が近い、若い女性が多いことが特徴で、ぼくとしては彼女たちが仕事で結果を出しやすい職場環境をつくることを心がけています。
言うまでもなく、会社経営に求められるのは結果です。しかし、ここに必勝法はありません。業務内容や会社によって、求められるスキルや価値観なども異なります。ここで経営者として大切なことは次のふたつです。その会社がどのような市場に対して、どのようなサービスをつくるのかということ。そしてその市場では、どういった人材が活躍できるのか理解した上で組織づくりをすること。我々の場合は、若い女性向けの市場でトレンド情報を発信しています。ここで価値ある情報を発信するには、まず社員自身がトレンドに明るくなければなりません。ですから、残業ばかりでずっと社内にいるのではなく、流行を追いかけられるだけの時間的余裕が彼女たちには必要です。適度に遊んでプライベートを充実させることが結果に直結するとぼくは思います。このように社員の働き方に配慮することは、健全な経営を続ける上で大切なことです。
めざすは社員に多くを委ねる
サッカー型の組織
特に相手が女性の場合、管理しすぎないことがポイント。ぼくは組織を“野球型”と“サッカー型”に大別しています。監督が選手に細かく指示を出す野球型の組織と、大まかな戦略を伝えてあとはピッチ上の選手に委ねるサッカー型の組織です。日本では言われた通りにやらせる、言われたことをやるに慣れている人が多いので、野球型の組織が機能することが多い。けれども弊社の場合、自由にやらせたほうが力を発揮できる社員が多いので、ぼくはサッカー型の組織をめざしています。 そのため、あえて細かな目標数値は設定していません。彼女たちは数字の話を好まないからです。そんな人たちに数字を前にしてプレッシャーをかけても、モチベーションが削がれるばかりで逆効果でしょう。実際、社内で数字の話をしても「私たちは、そんなことのために働いているのではない。もっと女性の笑顔をつくりたいのです!」と反感を買うのがオチです(笑)。
もちろん目標数値が何もないわけではありません。売上金額、動画の再生回数、アプリの継続率、アクティブ率──。これらを指標にしています。多くの社員は、売上金額よりも再生回数を気にするようです。ぼくも細かな数字ばかりを追って本質を見失いたくはないので、このあたりの指標に絞って日々チェックしています。いろいろな事業が育ってきた近年は、全社的な数値目標というよりは、事業部ごとに目標数値を定めるようになりました。
数字の話どころか、あまり仕事の話をし過ぎないことも大切です。もちろん働くことは仕事ですが、C Channelでの仕事は多くの女性社員にとっては単なる仕事ではありません。“メイクが大好き” “ファッションが大好き”という彼女たちにとっては、これらにかかわる会話は、ある意味趣味の延長にあるおしゃべりです。一方で契約とか法律といった話になると、途端にこれは仕事の話と拒否されます。そのため彼女たちが仕事っぽいと思う話は最小限に留めてきました。
女性が楽しく運営しているか、
これがサービスにあらわれる
先述の通り、社員が仕事に追われて恋愛ができないような会社にはしたくありません。だから週末やバレンタイン、クリスマスなどのシーズンイベントはしっかり楽しんでほしい。今日(取材当日)はちょうどバレンタインデーですが、このテナントに入っている企業の社長にぼくから働きかけて、彼氏・彼女がいない社員を集めたパーティーを企画しました。今のところ190名ほどが集まる予定です。多くの女性にとって恋愛は、仕事を好転させるものですし、女性は恋愛と仕事の両立も上手です。だからC Channelでは社内恋愛を推奨しています。積極的に恋愛してプライベートを充実させることで、高いパフォーマンスを発揮してもらいたいですね。
他にも社員の誕生日や結婚、出産などは、社内でもお祝いをします。毎月催されるパーティーにはインスタ映えする料理を用意し、クリッパー(C Channelに動画投稿をする人たち)にも集まってもらって、キラキラした場にしています。社員もそのときの様子を自分のインスタグラムにアップして、友人から「いいね!」をもらったりしています。いろんな形で若い女性社員たちが満たされる職場にしたいのです。
なぜなら女性が楽しそうに運営しているかどうかがサービスにも現れると思うからです。実際、社員がプライベートの時間を持てるようになったことで、子育てと仕事の両立を始めるメンバーも増えました。おかげさまで子育てのHowToをテーマにしたママ向けのメディアも、彼女たちを中心に始まっています。こういった事例をもっと増やすためには、子育て中の社員がもっと働きやすい環境を整えていく必要もあるでしょう。社員たちが安心して力を発揮できる職場ができれば、会社にとってもいい結果に結びつくはずですから。
やりたいことができる分、
結果を出すことも重要
C Channelには「女性を幸せにしたい」と思って入社する社員が多い。理由を聞くと、母子家庭で育ったとか、女性が多い家系に育ったなど生い立ちに理由があることが多いようです。ただ、「女性を幸せにしたい」という気持ちだけでずっと働き続けるのは難しいので、会社からも新たなモチベーションを与えています。それはやりがいなのか、報酬なのか。我々は前者です。世の中には「仕事とは我慢することで、その我慢の対価として給与がある」と考える人もいますが、自分のやりたいことを我慢せずにやれる環境を与えているので、そのような考えを言い出す社員はいないです。今後も自分が本当にやりたいことに取り組んだ上で給与が得られる環境にしていくつもりです。
やりたいことを我慢せずにやってもらう一方で、 結果を出すことも重要視しています。そのため採用時に注目するのも結果を出せる人かどうかです。まだ新卒採用を行なっていないので、全員が中途入社です。採用活動は基本的に現場スタッフに任せていますが、彼らは自身よりも優秀な人の採用をためらうことが多いので、それを見逃さないよう自ら採用に臨む場合もあります。過去の実績、地頭のよさ、考えて発言できるかどうか、行動力があるかどうか。これらを睨みながら結果を出せる人かどうかを判断します。
中途採用で特に難しいのは、マネージャークラスの採用です。我々の場合マネージャーは、社員から昇格した人と、新規事業の立ち上げ時に役職付きで採用された人とで半々になりますが、いきなり役職付きで入社すると、前からいた社員に反感を買う場合もあります。けれども極端な話、そのマネージャーが入社したことで、元々いた社員が辞めてもいい。その人がもっと優秀な社員を採用して、結果を出せるのであれば正しい採用だったといえます。結果が最優先。経営者が見るべきはそこです。
マネージャークラスの人材を採用した際は、結果が出るように会社でもサポートし、試用期間である3カ月目をめどに今後の処遇を判断します。ある程度の結果を出しながら伸び悩んでいる人については、一緒に解決策を模索します。結果を出していてもリーダーシップに欠ける場合は、給与は変えず役職を下げることもあります。
社長の代わりになる人材を育てたい
現在の組織は、現場、マネージャー、役員の三階層にわかれています。役員は社内外にいますが、なるべく執行役員に事業責任を担ってもらっています。戦略や計画を練り、実際に事業部を運営してもらうのは彼らで、それがうまく機能しなければ、経営会議で議論しながら改善します。
こうして役員に任せるようにしているのは、社長としてぼくの代わりになる人材を育てるフェーズが訪れているからです。いつまでもぼくが口を出し続けるのはそろそろやめにしたい。役員それぞれが各事業において社長のように立ち回り、結果を出すべきです。一度こうして任せてみて、問題が起きたら一緒に解決を試みます。それを繰り返しても結果が出なければ、別の人に任せる。これを繰り返しながら、今の役員の中から会社全体をまとめる人を育てたい。今のC Channelで、ぼくの代わりを務める人材には高いスキルが求められます。ぼくのやり方を踏襲するのではなく自分のやり方で結果を出せる人、社員がついてくる人、競合と戦えて、スピードもあって、開発もわかって、営業もわかって、女性の気持ちもわかる人。こんな人が理想です。すべての能力を兼ね備えてはいなくても、それにかなう人材の登場を心待ちにしています。
評価のために仕事をするのは、
やめにしよう
C Channelは2015年に設立されたばかりなので、まだ凝り固まったルールや制度はありません。働き方も自由です。評価制度もありません。ルールでがんじがらめにして優秀な人が退職してしまっては元も子もありませんし、そもそもルールがなくても結果を出せる人と働きたいです。
設立当初から「評価や昇給がなくても働きたい」と思ってくれる人を採用してきたので、昇給基準や評価制度を求める声は上がっていませんが、あえて制度をつくらずにきたのは、評価のために仕事をしてほしくないからです。期末になると評価のために結果を出そうとやっきになる、みたいな働き方は間違っていると思います。ユーザーやお客様のためにやってきことが結果につながり、それが評価に結びつくべきであって、評価のために仕事をするのでは本末転倒です。
そうはいっても組織が成長するにつれて、評価制度も必要になってくるでしょう。そのときには評価者が自信を持って評価できる仕組みを設けたい。ぼくは評価と昇給をイコールにしないことが肝心だと思います。評価とは、成長するための気づきを得ることです。理想を言えば、上司ひとりが部下を一方的に評価するのではなく、360度評価のように周りからのいろんな意見を評価に取り入れたい。そうであれば「評価される=成長に必要な多様な気づきを得ること」と捉えやすくなるのではないでしょうか。
また評価に欠かせない目標設定についても議論の余地があります。たいていの人は目標を低めに設定します。明らかに達成可能な目標にもかかわらず、不思議なことに結果は大きく上振れません。それが重なると、どんどんつまらない会社になっていきます。このように目標を設定すること自体にも長短があるので、時間をかけて納得いく方法を見つけたいですね。
昇給と評価は、切り離して考えるべき
昇給については、評価とは切り離し、事業部の業績に連動させるべきだと思います。そもそもC Channelのようなベンチャー企業には、会社の経営を苦しめる過度な昇給はできませんので適切な判断が必要です。また、評価と給与に対する考え方にも男女差があります。女性には「給料は気にしないけど、楽しく働きたい」という社員が多い。男性には「スキルアップにつながるかどうか、スキルアップしたら給与が上がるかどうか」を気にする社員が多い。そういう男性社員には「ここでスキルアップしたら、いつか給与の高い会社で採用されるから、もっと頑張れ」と背中を押します。もちろん「うちにいたほうがスキルアップできるよ」とも添えますが、それでも「ほかでチャレンジしたい」と言われたら仕方ありません。ノウハウが流出してしまうデメリットはありますが、あまりにも居心地がいい会社にすると、適度な新陳代謝がはかれなくなるので、退職者は気持ちよく送り出すことにしています。
ぼく個人は、男性社員には厳しいほうかもしれません(笑)。一方、女性社員に対しては逆。なるべく直接話すことは避けて、言いたいことはうまく役員に伝えてもらっています。期待の裏返しだとしても、厳しく接して泣かせたくはありませんので、社員との接し方は簡単ではありません。いずれにしても社員には、やりたいことに楽しく取り組んでもらいながら、優れた結果を出してほしい。それこそがぼくの願いです。