理念は、体験することで浸透する
1978年、北海道生まれ。仲間とともに2006年北海道発のホットヨガスタジオ「BELBE」をオープン。2008年に株式会社LIFE CREATE設立。2014年にブランド名を「loIve(ロイブ)」に変更。2015年に「平成26年度 北の起業家表彰 奨励賞」を受賞。2016年には日本初のサーフエクササイズ専門店「Surf Fit Studio」を銀座にオープン。現在、「loIve」は全国28店舗、「Surf Fit Studio」は2店舗を展開。
理念浸透がおろそかになり、
1号店を閉鎖
最初に出した1号店は大成功したのですが、半年後に2号店を出した時、いきなり2店舗とも赤字になってしまいました。 振り返ってみると、理念の浸透ができていませんでした。目標ではなく、会社の目的やフィロソフィーが浸透していなかった。私達は何のために仕事をしているのか、何のためにこの会社が社会の中にあるのか。そういった、仕事への意味づけとなる考え方の共有ができていませんでした。
2号店を出店しようと動いていた時、私は2号店の立ち上げに集中していて、久しぶりに1号店に顔を出したら、スタッフの目から輝きがなくなってしまっていました。俗に言う、魚の死んだような目をしていました。2店舗合同で行う会議の冒頭で1号店の店長が「もう、辞めたい」と言い出して、これは末期症状だなと思いました。
赤字になった1号店をすぐに閉鎖して、全社員を2号店に集め、会社の目的を共有するための研修制度をしっかりつくって実施し始めました。幸い1店舗にした時点で赤字は解消されて、新たなスタートを切れました。
会社での仕事を通して、自分の人生をどんなものにしていくのか。会社としてのあり方、ミッションを通してそれぞれの人生をどんなものにしていくのか。社員一人ひとりの価値感を大切にし始めてから、経営も上手くいくようになりました。
人生の特別さ、素晴らしさに
気づく体験をする
この経験以来、理念がなにより大切だと思い、これまで経営を続けてきました。理念の浸透という観点で私が大切にしていることは、理念を体験するということです。理念を暗唱させる会社も多いですが、私はあまり意味がないと考えています。理念は、自分で体験して、心からそう思わないと体現できないので、理念を体験する研修を設計して、実施しています。
私達のミッションは、自分自身をふつうだと感じていた女性が、自分の素晴らしさに気づいて、自分や自分の人生を愛するという体験を通して、ふつうに感じていた人生がスペシャルな人生だと感じられる機会を提供することです。
社員の研修は、最初は自分の素晴らしさに気付いていなかった人が、様々なセッションを通して人生の特別さ、自身の素晴らしさを発見できるように設計されています。そうした研修を通し、自分の人生を丸ごと肯定できるようになります。この体験をした人は、他者にもそうなって欲しいと思うようになります。
様々な階層毎の研修の中で自己承認を上げていくので、入社して1年で、全員が100%自分のことを好きになります。具体的には、自分の過去に対しての見方、捉え方を変えていきます。専門的な言葉で表現すると、過去の未完了を完了させる。日々の生活の中では忘れてしまっていたり、意識的に思い出さないようにしているけれど、本当は気になり続けている過去の体験を、声に出してアウトプットしていきます。無意識のうちにおさえてしまっている感情のエネルギーを解放してあげます。
多くの人が、悲しんでいる自分、自信のない自分を隠そうとします。そして、隠しているうちに自分でも気づかなくなってしまいます。そういった深い部分に押し込められた感情は、自分でも気づかないレベルでパフォーマンスにも影響があるので、まずは思い出して、自分の感情の存在に気づいていく。言葉にして、そういう自分を認める。自分が本当は悲しかったり、自信がなかったりすることを認める。まず、自分自身に気づくことがスタートです。
自己犠牲から生まれる
愛情はよくない
自信というものは、チャレンジをして、それを乗り越える中で生まれてきます。そのため、自己承認の次は、チャレンジのステージに入ります。自分との約束をして、チャレンジしていく。そうすると自信が生まれて、人は夢が開いていきます。あんなことしたい、こんなことしたいを素直に表現できるようになります。
泊りがけでの研修もいくつも設計しています。今年は全員で会社のビジョンを描くセッションを行いました。こういったビジョン系のセッションはいきなり全社員でやるのは難しいので、初めての時は、私がビジョンを描いて、みんなが実現するためのプランを考えるというセッションを行っていました。その次の年は、幹部メンバーがビジョンを描くことにチャレンジしました。
実は、経営者以外がビジョンを描くためには越えなければならないハードルがあります。経営者は、既存の概念にとらわれないクリエイティビティを持っているので、概念を外して大きなビジョンを描けるのですが、幹部には、会社や経営ってこうだからという過去につくられた概念があって、発想が制約されてしまいます。実際、1日目は大きく描けなかったのですが、2日目にブレークスルーがあって大きなビジョンを描くことができました。
宇宙にまで想いを
馳せるくらいがよい
そして今年は、社員全員で未来を描こうというチャレンジをしました。自分達は会社をどうしていきたいかに関して、写真をマッピングしながら進めました。そうしたら、ハワイ、ニューヨーク、さらには宇宙にまでヨガスタジオ出店の夢が膨らみました。さすがに宇宙は発想が飛躍しすぎですが、これくらい概念を外してやるのが効果的です。セッションが終わった後は、会社を通して実現したい大きな目標を、多くの人が率直に語れるようになります。
個人面談もよくやっています。リーダー研修の一部としてもセットしています。自分の過去に対しての完了をつくったり、成果をつくった時の自分を取り戻すのが主な趣旨です。成果をつくったことがあるかと聞かれると、答えられない人は多いと思います。他人からみるとすばらしい成果なのに、本人が成果をつくったと思っていない場合が多いのです。
チームで目標決めて、それを達成するプロセスの中で、個人面談を通して過去の成果をつくった時の自分を思い出し、体現していきます。そうすると、過去に成果をつくったときの自分が戻ってきます。自分はどういう人間として成果をつくったのかをセッションの中で思い出していくと、その時の自分を取り戻せるようになります。
自分を認め、仲間を認める3日間
他の取り組みとしては、「全店研修」というものがあります。年に1度、全社員が集まって、2泊3日に渡り研修を行います。3日間、営業は止まってしまいますが、それ以上に価値がある時間だと思っています。
今年は、北海道に全員集まりました。内容は研修、年間表彰、運動会、ヨガトレーニングなど様々ですが、その間に、サプライズで社員を承認する様々な仕掛けが盛り込まれます。承認の仕掛けはとても効果的です。年次の浅い社員が承認されている先輩を見て、自分も承認されるような貢献ができる人になりたいと感じるので、成長や貢献への意識に好循環が生まれます。
この全店研修は社員の定着率にも大きく貢献してくれています。ちなみに、研修終了時点での理念への共感率は、5段階評価で最高の”とても共感している”の率が99%です。キャリアアップに対しての積極性も全店研修以降グッと増します。私達は、キャリアアップに関して立候補をベースにしていますが、研修後は立候補者がかなり増えます。
社内でのコミュニケーションはTalknote
組織の規模が拡大していく中で、店舗毎の取り組みなどの社内シェアをどうしたら上手くできるかという問題意識を持っていました。当時は、報告シートのようなフォーマットの運用も検討していました。そのタイミングで、尊敬する先輩経営者の方からの勧めでTalknoteを導入しました。
例えば、“語ったっていいじゃない、にんげんだもの。”というグループは、自分で気づいたこと、発見したことを自由に投稿していくグループです。仕事とプライベートの境なく、何か感じたことのあったメンバーが、想いを素直に語ってくれています。このグループの特徴は、夜中の投稿が多いことです(笑)。200人の社員が見ているグループに、自分の想いを素直に投稿できたり、何十人も社員の前で自分の想いを語れたり、感動して涙できたりする文化は、私達特有のものだと思っています。 “お客様感動エピソードグループ♡”で、日々の仕事のなかで感動した体験をシェアしたりなど、店舗を越えた交流も生まれています。 Talknoteを、会社全体としてのチームビルディグに役立てています。遊ぶ日のアイデアコンテストを実施したり、嬉しい気持ちやポジティブなことをどんどん共有するようにしています。
店舗が少ない時代は、私が声をかけて全員と定期的にランチやディナーに行けていたのですが、店舗が拡大すると一人ひとりと深く関わるのが難しくなってきます。そして、店舗よってチームビルディングにどれくらい予算と時間を割くかも差が出てくるので、先程お伝えした全体での遊ぶ日のアイデアコンテストなど、会社としてもフォローするようにしています。
今後、社員が増える中で、最適なツールも変わってくると思っています。今は文字が中心ですが、動画がメインになる日がくるかもしれません。
産後復帰に安心して
女性が輝き続けられる環境
加えて、エリア店長以上の保育料は全額負担しています。無認可の保育園で、月額が7〜8万円と高額になっても変わりません。私達はほとんどが女性社員の企業なので、産後復帰の難しさへの問題意識を持っていました。保育園に入れるかどうかわからないため、産後復帰のタイミングを決められない。本人も戻りたいし、会社としても戻ってきて欲しいのに、タイミングを約束できなかったり、復帰すると言ったのに結局保育園が決まらなくて復帰が延期になってしまったりもします。そうすると、会社に迷惑をかけているのではないかという気持ちになってきて、申し訳ないので復帰せずにこのまま辞めます、となってしまう。これだと、誰にとっても幸せじゃない。
それならば、無認可保育園でもOKにして、保育料を全額負担してしまおうと。産休で仕事を離れるインストラクターは、会社にとっても、お客様にとってもインストラクターとしていて欲しい存在ですし、新しいメンバーの教育コストを考えればコスト的な負担感もありません。こういった制度があることも、女性のキャリアップ志向を止めず、常に未来に向かって仕事を前向きに捉え続ける土台になっています。
経営者の私自身に子どもがいて、子どもを育てながら働くにはどうしたら快適か、どうしたら能力を発揮できるかが実感を伴って理解できている点は、会社としても強みだと考えています。
人生を、愛そう。
また、私たちの組織は多店舗展開をしていますが、効率性よりも実際にフェイス・トゥ・フェイスでの場をつくり、コミュニケーションをとることを大切にしています。毎月1回従業員に予算を与えて、出勤扱いで社員同士が思い切り遊ぶ、「遊ぶ日」という取り組みもその最たる例です。遊ぶ日では、温泉やピクニックへ行ったり、いちごのコスチュームを着ていちご狩り行ったりと、様々な遊びを各人が行っています。
コミュニケーションを取る機会をたくさん作り、仕事やプライベートのことなど、何でも隠さず話す文化をつくることで、お互いを信頼し安心して働く事ができ、能力を最大限に発揮できるようになります。
会社には目標だけでなく、目的が必要です。ほとんどの会社は、目標が目的になってしまっています。目標だけでは人は倒れてしまう。気を病むし、走れなくなる。そのことに、2号店を出店したタイミングで気づきました。 わたしたちの組織の目的は、事業を通じて、自分を愛し、イキイキと生きる女性を増やすことにあります。その目的が従業員やお客さまの共感を得続けている限りは成長していけると信じています。愛にあふれイキイキと輝く女性が社会で活躍することで、そういった女性に育てられる子どもたちや、旦那さん、ひいては世の中が明るくなっていくことを願っています。